2015年09月16日

8月 かみのやま温泉駅界隈


ひと足早いアートの秋。
国内屈指の中国漆工芸館、蟹仙洞。

2015年8月某日

01蟹仙洞玄関s.jpg00蟹仙洞イメージs.jpg08蟹仙洞団体玄関s.jpg
02蟹仙洞外観s.jpg17蟹仙洞堆朱s.jpg16蟹仙洞堆朱s.jpg
14蟹仙洞展示室@s.jpg18蟹仙洞堆朱s.jpg19蟹仙洞陶器s.jpg23蟹仙洞書会津八一s.jpg
21蟹仙洞写真高島屋s.jpg26蟹仙洞展示室As.jpg27蟹仙洞刀s.jpg31蟹仙洞絵本s.jpg

 今年は江戸川乱歩の没後50周年にあたる年らしい。乱歩といえば奇想天外なミステリー小説の巨匠だが、その素顔は無類の甘党で人間味あふれる人物だったようだ。お盆を過ぎ、先の猛暑が嘘のような涼しさが続く8月下旬。名残の夏へのオマージュに、乱歩がこよなく愛したという「氷すい」をいただきに、再び連れと上山へ。(詳細はこちらのブログを参照)
 山形新幹線のかみのやま温泉駅東口から車で数分。まず訪れた「蟹仙洞 かいせんどう」は、かつて上山で製糸業を営んでいた長谷川謙三氏のコレクションを集めた私設博物館。ここは希少な中国の漆工芸品や日本の刀剣や武具類など、重要文化財を含む約4,000点もの工芸品を入替展示している。
 閑静な住宅街でひときわ目を引く大きな土蔵を抱えた建物は、入口が団体客用と個人客用に分かれている。一軒家風の引き戸を開け中に声をかけると、現館主で3代目の長谷川浩一さんが笑顔で出迎えてくれた。
 2人分の入館料(おとな一人500円)を支払い、館内をご案内いただきながらお話を伺えば、国の登録有形文化財にも指定されている主屋は築90年。初代の住まいをそのまま開放したものだという。一風変わった「蟹仙洞」の名は美術品の収集を“横ばい”人生と称し、自らを蟹の性格に例えた初代の酔狂な遊び心らしい。
 磨き上げられた桂の廊下が美しい主屋と棟続きの洋館、豪壮な土蔵の3つに分かれた建物は、部屋毎に展示テーマが設けられている。寄木細工の床や大理石の水場など、ハイカラなデザインの洋館には、カメラを趣味とした初代が撮影した明治から大正時代の写真が飾られ、100年前の人々の活気あふれる営みが瑞々しいセンスで収められている。館のコレクションには質、量ともに全国屈指ともいわれる見応えのある中国の漆工芸をはじめ、刀剣類や武具、古民具、東北地方の郷土玩具や昔懐かしいキンダーブックなど、ジャンルを問わず集められた品々が並び、初代の人柄を偲ばせる。中でも潤みを帯びた肌加減が何とも艶めいた中国の明、清時代の堆朱コレクションは、見識のない私にさえその価値が分かる素晴らしさ。敷地内には、作家の井伏鱒二の短編「還暦の鯉」の着想の原点となった、齢60年の老鯉がいた日本庭園も見える。館主曰く、鯉はすでに天命を終えたらしい。いまは中国の草魚(そうぎょ)が池の主らしい黒光りする巨体を、晩夏の水面にゆらりと踊らせていた。

36上山コンチェルs.jpg33八幡神社s.jpg34八幡神社紅花地蔵尊s.jpg35八幡神社紅花地蔵尊s.jpg
49川芳s.jpg50川芳角煮ラーメンs.jpg51川芳角煮ラーメンs.jpg52川芳天ぞばs.jpg


「おくりびと」を生んだ、
名画のロケ地をそぞろ歩く。

 蟹仙洞から駅を挟んだ反対側、上山市の繁華街が広がる一角には、モントリオール映画祭でグランプリを受賞し一躍話題となった「おくりびと」(監督/滝田洋二郎 2008年作品)のロケ地「コンチェルト」もある。映画では静かな川沿いの路地にひっそりと建つ主人公夫婦の住まいだったが、実際にはかつての羽州街道で、現在の山形を縦断する交通の大動脈、国道13号沿いだ。現在、内部は不定期で公開しているようだ。晴れていれば、ここから遠く蔵王の山並みも見渡せる。「初雁かしら?」連れの言葉にふと空を仰げば、鈍色の空を静謐な映画のシーンのように数羽の編隊の鳥の群れが翔けてゆく。
 何気なく視線をそらした先には、延文元(1356)年の創建と伝わる「八幡神社」の姿も。毎年9月に行われる上山最大の「上山秋祭り」では、上山城の月岡神社と正八幡神社の合同による“三社神輿渡御行列”や“踊り山車”が運行されるのだという。
 かつて紅花の一大産地として賑わった上山には、紅花の健やかな生育を祈願し御札を求めては紅花畑に立てかける風習があり、神社の境内にはその面影をしのばせる「紅花地蔵尊」が、穏やかな尊顔で佇んでいた。
 昼食に訪れた「川芳」も「コンチェルト」のすぐそば。目印の幟の脇にある路地の階段を下りた先、という少々分かりにくい場所にある。こじんまりとした広さといい、媚を売らない店構えといい、どうやらかなり地元密着の“穴場”の雰囲気(笑)。県産蕎麦粉“でわかおり”を使用した二八蕎麦に、天ぷらがセットになった名物「いた天そば」(1,300円)は、濃い目のつゆとの相性もいい。《いた天そばは、そば好きのお客様へのサービスですので、お一人でお召し上りください》とメニューに書かれた注釈どおり、蕎麦の量はボリューム満点の2人前(笑)。連れがオーダーした「特製角煮ラーメン」(750円)も、鶏ガラと魚介にトロトロに煮込んだ角煮の甘さと八角の風味が食欲をそそる味わいだった。


53二日町共同浴場s.jpg38栗川稲荷神社s.jpg43栗川稲荷神社s.jpg44栗川稲荷神社02s.jpg
44栗川稲荷神社s.jpg46栗川稲荷神社s.jpg47栗川稲荷神社s.jpg48栗川稲荷神社s.jpg

湯町が育む賑わいと祈り。
素朴な共同浴場と鎮守の森。

 八幡神社の裏路地には“あいさつ浴場”の愛称で知られる「二日町共同浴場」もある。この名は、地元の人が挨拶をしながら入ってくることに由来する何とも微笑ましいものだ。上山に7つある共同浴場の中でもここは比較的新しく近代的な造り。入浴料(おとな一人150円・洗髪券は別途100円)を支払い、早速、ひと風呂。タイル張りの明るい浴室には温度の異なる浴槽が2つあり、ジャグジーも付いている。上山でも一番、と評判の熱い湯船は、肌慣れた地元のひとでも、なかなか長湯ができないという、平伏の熱さだった(笑)。
 どんよりとした雲行きを気にしながら、湯上りのほてり冷ましに訪れた「栗川稲荷」は、今なお商人の信仰を集める霊験あらたかな古社だ。
 伝説によれば、1697(元禄10)年、松平信通の上山への移封が決まった際、宿泊した利根川前の本陣で信通の夢枕に稲荷神の化身が立ち、川の大洪水を知らせたのだという。以来、宿場町(武蔵国北葛飾栗福)の名であった“栗”と利根川の“川”に因み「栗川稲荷」と名付けられたようだ。温泉街のはずれの高台にありながら、深い鎮守の森に抱かれた境内は、信者が奉納した1,000余基もの赤鳥居や石灯籠が立ち並ぶ異世界。ちいさな鈴がびっしりついた拝殿の鈴緒も、信仰の篤さを物語る。伺えば「栗川稲荷」は山形には珍しい規模を誇る稲荷とのこと。なるほど、そう言われれば、狛狐の表情も気品に満ち、どこか雅やかに見えるから不思議なものだ(笑)。

54浄光寺s.jpg55浄光寺s.jpg56浄光寺s.jpg
59浄光寺庭園s.jpg57浄光寺庭園s.jpg

雨を呼ぶガマ寺の蓮池。
歴代城主が眠る密かの名庭。

 「浄光寺の庭園はご覧になりましたか?」ふと、蟹仙洞の長谷川さんの言葉が脳裏をよぎる。氏によれば、蟹仙洞の入口脇にあった藤の大木は、かつて上山藩家老の屋敷にあったもので、歴代藤井松平家の菩提寺で、以前、桜参りでも訪れた「浄光寺」ゆかりの古木だという。(詳細はこちらのブログを参照)寺は上山にある寺院の中でもその名園で知られ、春先には数百匹ものガマガエルがどこからともなく集まることから、別名「ガマ寺」として親しまれている。
 季節を違えて訪れた「浄光寺」は、ポツリポツリと降り出した雨のなか、晩夏に抗う鮮やかな緑に縁どられていた。目指す庭は寺が秘匿する至宝のように、表側からは見えない本堂の裏手にある。
 美しい。その想像を超える姿に、一目で虜になる。背後の山を借景に、風に応える竹林がたおやかな絵画を描く庭には、刈り込まれた躑躅や紅葉、百日紅が配され、庭全体を写し撮るかのように、大きな蓮池が水鏡のように広がっている。天に向かい聳える竹林や杉のタテの景観と、左右に横たわる池のヨコの広がりが、ゆったりと伸びやかでどこか天真爛漫。恣意的な風情なのだ。 
 この庭の作庭は、“沢庵”の漬物でも知られる沢庵禅師(詳細はこちらのブログを参照)で、京都龍安寺の裏庭と桂離宮の庭園をそれぞれ模したものだという。上山を訪れた際は、是非、四季折々のこの庭の美しさに触れて欲しい。

ね山城屋s.jpgひ山城屋s.jpgふ山城屋s.jpg
に玄関やまごぼうs.jpgぬ玄関やまごぼうs.jpgあ客室夕景s.jpg
か夕食s.jpgけ夕食s.jpgち夕食s.jpgう夕食s.jpg

行き合いの季節を旅する、
情趣にひたる上山ぶらり。

 雨足の強さに後ろ髪をひかれる思いで庭を後にし、目的の「氷すい」をいただきに「山城屋」を再訪。
 館はしっとりと露に濡れ、絵になる木造建築がつややかな緑に水彩画のような趣を奏でている。湿気を帯びた草いきれに包まれる2階の部屋で、いちご雪と山ぶどうを贅沢に使った「ミックス」(950円+ミルク50円)と、地元産の橙黄色トマト“桃太郎ゴールド”の「とまと」(870円)の「氷すい」を注文。好みで岩塩をかけていただく「とまと」は夏の記憶を辿るような、ほんのりと甘く優しい風味だ。
 葉山館のアプローチでは、露に濡れた山牛蒡の実がお出迎え。定宿の気軽さでフロントに挨拶を交わし、部屋で寛ぐ頃には雨も止み、初秋めいた涼風が、せまる夕暮れに蔵王の稜線を溶かしていく。
 じっくりと長湯を楽しんだ後でいただいた夕膳も「天然鮎の塩焼き」や「完熟トマトと新玉葱の鴨鍋」など、移りゆく季節の滋味。行き合いの風情を引き立てる、時を重ねた25年熟成の米焼酎「シーハイル蔵王」で、今日の思い出を振り返ってみる。
 平安時代から愛され、清少納言の「枕草子」にも“あてなるもの(上品なもの)”として登場する「氷すい」。“すい”とは、いわゆる“砂糖水”のこと。山城屋での今夏の「氷すい」も無事、食べ納め(笑)。夜の深まりとともに、またしとしとと降り出した子守雨を仰ぎ、山川草木を育む文字通り“甘露”なる天の恵みに思いを馳せる。今年もまた、上山の美しい秋がやってくる。





posted by kaminoyamaaruku at 12:46 | 日記 | 更新情報をチェックする
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